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エディットフォースがCNS領域遺伝子治療で田辺三菱と導出契約、総額200億円以上

2022.06.28

野村和博

 九州大学発スタートアップのエディットフォース(福岡市、小野高代表取締役社長)は2022年6月27日、田辺三菱製薬と、特定の中枢神経系疾患に対する遺伝子治療の研究、開発、商業化に関する全世界の独占的なライセンス契約を締結したと発表した。契約一時金と開発・販売マイルストーンの総額は200億円以上となり、製品化後は全世界の販売額に応じたロイヤルティーがエディットフォースに支払われる契約だ。

 エディットフォースの基盤技術は、精密にDNAおよびRNAを認識できる植物由来のPPR(PentatricoPeptide Repeat)蛋白質を、ターゲット遺伝子などの特定の塩基配列に応じて人工的に設計できるものだ。旧世代ゲノム編集技術のZFNやTALENも蛋白質ベースの塩基認識が可能だが、これらはDNAを認識するもので、RNAを認識できるエディットフォースの蛋白質は独自性が高い。RNAをターゲットにできれば、DNAを対象とした遺伝子治療よりも、オフターゲット効果の影響を少なくできる。

 PPR蛋白質は、35アミノ酸から成るユニット(PPRモチーフ)が10~20個連なった構造をした蛋白質で、植物のゲノム解析によって2000年に見いだされた。九州大学農学研究院の中村崇裕((たかひろ)教授のPPR蛋白質関連の研究成果を基に、2015年5月にエディットフォースが設立された。

 このPPR蛋白質と、RNAに操作を加える機能モジュールを結合させた分子を、ベクターを用いて細胞に発現させることで、様々な遺伝子治療が可能となる。機能モジュールによって、RNAのノックダウンやダウンレギュレーション、アップレギュレーション、スプライシング調節など、様々な遺伝子治療を実現できると考えられている。エディットフォースはこれまでのPPR蛋白質研究の蓄積から、目的の配列に対する特異性と、機能モジュールを結合させた場合の安定性を兼ね備えた、PPR蛋白質の設計技術を有している。

 今回の契約では、田辺三菱製薬が指定した特定の中枢神経系疾患に関係する遺伝子に対する、1種類の有望なPPR蛋白質をエディットフォースが作製し、その権利を田辺三菱製薬が獲得した。両社は以前から共同研究を実施しており、その研究成果として得られた蛋白質だという。対象となる疾患、遺伝子などは非開示で、PPR蛋白質と機能モジュールを結合させた分子を細胞内にデリバリーするためのベクターも非開示だ。

 田辺三菱製薬の広報担当者は「遺伝子治療領域は当社の重点開発領域になっており、様々なアプローチを探す中で、エディットフォースのPPR蛋白質の有望性が非常に高く、ライセンス契約に至った。開発候補分子や開発スケジュールなどが決まり次第、詳細を公表していきたい」と述べた。